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紅蓮と呼ばれる女

 ヘリから見下ろす夜の街のネオンは、まるで宝石を散りばめたショーケースのように煌びやかに輝き私を出迎えた。
 本国から自家用ジェットで入国し、そのままヘリに乗り換えて移動したお陰で、本来ならば空港から一苦労のこの距離も、あっと言う間に到着する。
 そうしたのは時間短縮はもとより、警護の意味でも空の移動はメリットがあると理解しているからだった。
 なんと言っても、私の命を狙う者はごまんといるのだから……。
 
 
 私ことホンリィェンが、本国から派遣されたのは、この国への進出が予想以上に遅れていた為だった。
 本来なら足場を固めてなければならない時期をとうに過ぎても、未だ商品のルート確保すら出来ない状態でいる。
 商品である武器・麻薬を送り込み、この国に混乱を巻き起こすと共に、吸い上げた金で権力中央へのパイプを繋ぎ腐敗を撒き散らす。
 
―― 混沌こそが金を産み出す土壌だ ――

 それが私のボスの持論であり、それを実現する為に、あらゆる手段を用いて、さまざまな国で市場を開拓してきた。
 そうして、気が付けば、私は”紅蓮(ホンリィェン)”などという通り名で呼ばれるようになっていた。
 様々な障害を焼き払うかのように一掃していく私の手腕から付いたと耳にし、今では自ら名乗るほど、この名を気に入っていた。
 
 
 そうしている間にもヘリは高層ビルの屋上へとゆっくりと着地すると、一緒に乗り込んでいた部下の1人がスライドドアを開ける。ヒンヤリとした空気が頬を撫でる中、私はゆっくりとヘリポートへと降り立った。
 ローターの巻き起こす風が肩まである黒髪を巻き上げるのも気にせず、私は紅いコートを靡かせながら4人の部下を引き連れ歩き出すと、秘書の女と8人もの黒スーツの男たちを引き連れた中年の男が出迎えた。
 その男が今回の進出を取り仕切っていた人物で、40代の小太りの男は引き攣った顔で、私に対して必死に愛想笑いを浮かべようとしている。
 
――パンッ!

 その眉間に、乾いた音と共に小さな風穴が開くと、後頭部から脳漿が派手に撒き散った。
 私の右腕に握られたベレッタの銃口が煙を立ち上らせ、排出された薬莢がチンと足元で澄んだ音を立てると、それに遅れてドサッという大きな音と共に、目の前の男だった物体が膝から崩れるように倒れ、ドクドクと溢れ出す血によってヘリポートに血溜まりを広げていく。

「――なッ!?」

 とっさの事態に、迂闊にも懐に手を入れてしまった黒スーツの男たちが、その後を追う事になった。
 私の部下たちの手にしたH&K UMPのマルズフラッシュが、あたりを明るく照らし出し、大量の薬莢が足元に転がり散る。
 そうして、キンキンッと音を立てる薬莢の落下音が鳴り止むと、目の前に立っているのは、膝をガクガクと震わせている秘書の女だけだった。
 
「報告は、移動しながら聞く。付いて来い!」
「ヒッ……は、はいッ」

 銃を収め、ザクザクと歩き出した私たちに、恐怖で顔を強張らせていた秘書はハッとしたように慌てて付いてくる。必死の形相で、閉じかけたエレベーターの扉の隙間に潜り込むと、自然と私の正面に立つことになった。
 四方を屈強なサングラスをかけた男どもに、正面には深紅のコートを着た私に無言で出迎えられ、秘書の強張った顔が真っ青になっていく。
 
「やはく説明しろ。やるべき事をやる人間は好きだが、そうでない人間はさっきのようになるぞッ」
 
 そう言って、口元に冷笑を浮かべてやると、秘書の女は今度は顔色を蒼白に染めた。
 
 
 
 秘書から現状の説明を受けながら、エレベーターはビル内にあるオフィスへと到着する。
 フカフカの絨毯を踏み締めながら、オフィスの内部へと入ると、機材の設置作業をしていたスタッフが総員立ち上がって、私に対して一斉に踵を鳴らして敬礼をする。
 先行して配置についていた直属の部下たちの小気味よい動作に笑みを浮かべると、オフィスの最奥部にある部屋へと向かう。
 マホガニーのデスクと応接用のソファがあるだけの無駄に広いその部屋は、奥の壁一面がガラス窓になっており、夜のネオン街を一望できた。
 
「では、始めようか」

 窓の前に立ち悠然と夜景を見下ろすと、背後にいる部下に対し指を鳴らして合図を送る。
 そうして、背後で部下が無線で指示を飛ばすのを聞きながら、私は期待で胸を膨らませていた。
 
――カッ!!

 目の前で、ビルの合間からいくつもの激しい閃光を放たれた。
 それが収まると、次々と炎の柱が立ち上り、当たり一面を昼間のように照らし出すと共に、押し寄せる激しい衝撃波で、ビリビリと目の前の分厚い防弾ガラスが激しく振動した。
 
「さぁ、狼煙はあがった。派手に楽しむとしよう」

 目の前の光景に口端を吊り上げると、私は高々と宣言した。
 
 

 次々起こる爆発の混乱に乗じて、私が育て上げた部下たちで編成された実行部隊が、組織の進出の妨げとなる暴力組織、政治家などの邪魔者を排除する為に暗躍する。
 街中で次々と爆発が起こり続ける状況であれば、RPGや爆発物も気兼ねなく使える。
 ある政治家は対戦車ミサイルであるジャベリンで防弾仕様の車ごと吹き飛ばし、暴力組織の事務所にはレーザー誘導したスマート爆弾を落としビルごと吹き飛ばす。
 そうして、モニターに映し出されたターゲットリストが次々と赤で塗り潰されていくのを、鼻歌交じりに眺めた。

「これで、あの男が手間取っていた仕事の半分は、一晩で終わるわけだが……」

 背後に控える秘書へと顔を向けると、彼女はビクッと肩を震わせる。

「掃除ついでに、この際、害虫駆除もしておこうか」

 その言葉を合図に、私の部下2人が秘書の両腕を左右からガッシリ掴み上げる。

「あの男の策が事前に潰されていった訳を、じっくりとキサマから聴かせてもらおうか」

 残忍な笑みを浮べる私に、強張った秘書の顔からドンドンと血の気が引いていく。それを心地よく見つめていた私だが、秘書の瞳に一瞬だけ決意の光が灯るのを見逃さなかった。
 反射的に手が伸び、秘書の顎をガシッと掴んだのは、彼女が奥歯に仕込んだ仕掛けを噛み締める寸前だった。

「自決用の毒か? それなりの覚悟を持ったプロのようだが……キサマには、いろいろと喋ってもらう事があるから簡単に死んでくれるなよ」

 すぐさま部下が秘書の口に自決防止用の口枷を噛ませ、後ろ手に拘束していく。

「まぁ、すぐに殺してくれと懇願するようになると思うがな」

 荒々しく連行されていく元秘書の女にそっと呟くと、私は残りの作業状況を確認する為、再びモニターに目を向けるのだった。



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